コーヒーができるまで

「身近な一杯の長い道のり」

一杯のコーヒーにどれだけの人の手がかかっているか、考えてみたことはありますか?
あなたが今飲んでいるコーヒーは、どこで、どんな人が、どのような気持ちで栽培したコーヒーなのか。
普段何気なく飲んでいるコーヒーにも、育んだ自然があり、愛情を注いで育てた生産者たちがいます。
私たちが毎年通う産地の様子を通して、日々変化するコーヒー生産の現場をお伝えできれば幸いです。

全ては種子からはじまる

品質の良いコーヒーを生産するためには標高の高いエリアを選択する必要があり、スペシャルティコーヒーの産地の多くは標高1200mを超える山々の斜面にあることがほとんどです。国によっては農園の標高が2000mを超えることも珍しくなく、比例して生産者の労働環境も険しくなる傾向にあります。スペシャルティコーヒーの生産という観点でみると、温暖化の影響でそのエリアは年々狭くなっているのが現状です。

トップクオリティのスペシャルティコーヒーを産出する農園にはマイクロクライメイト(微小気候)と呼ばれる特有の気候帯が存在することが多く、その複雑で繊細な天候の移り変わりがコーヒーの木に農園特有の風味特性を与えるきっかけとなり、他には無い唯一無二の味わいを持つコーヒー豆の誕生を促します。

日本の農業に「苗半作」という言葉があるように、コーヒーの栽培も苗作りがとても重要なファクターを占めます。種子そのものの質はもちろん、根の張り方ひとつでその後の成長速度に大きな違いが発生するため、苗床のシステムから植え替えのタイミングまで、いかに質の良い苗を農園に植えるかが生産者たちによって日々研究されています。
農園に植えられたコーヒーの木は土壌からの養分を充分に吸い上げ、直射日光からコーヒーの木を守るシェードツリーから漏れる柔らかな日光を浴び、マイクロクライメイトによる適度なストレスを感じながら成長し、発芽から約3年の歳月をかけてようやく本格的な収穫を迎えます。

その間にも生産者たちの仕事は尽きることはなく、急斜面に植えられたコーヒーの木を一本一本チェックし、病気や害虫から守り、木の様子から土壌の状態を把握し必要な処置を施します。高齢の木は根元付近からカットバックし新しい幹を生やすことで樹勢を取り戻します。

セレクティブピッキング

ようやく本格的な収穫期を迎えたコーヒーの木は、雨季の到来とともに一斉に真っ白な花をつけ、その花のあとにたくさんの実を結びます。結実後はゆっくりと熟していくため、収穫を迎えるのは結実から半年以上の長い期間を要します。
標高が高く寒暖の差が激しいエリアほどゆっくりと熟していくため、より多くの養分を蓄え、甘みが強く高品質なコーヒー豆の生産が可能となります。

コーヒーの実はその形や色からコーヒーチェリーと呼ばれますが、果肉の部分は食用としての利用はせず、一カ所に集めてコンポスト(堆肥化)し、次の年からの肥料として再度コーヒーの木に与えられます。
一部の平坦な農園を除きほとんどの場合、農園は急な斜面にあるため大型の機械などは使用できず、ピッカーと呼ばれる収穫人がカゴを背負い、無数にあるチェリーを一粒ひとつぶ手で収穫していきます。収穫したチェリーの熟度の均一性がその後のコーヒーの味に大きな影響を及ぼすため、完熟した実だけを選んで摘み取るセレクティブピッキングという作業が必要となります。

熟練したピッカーほどセレクティブピッキングの速度と精度が高く、完熟した実だけを確実に収穫し、未熟な豆は残し、過熟した豆は取り除きながら収穫することができます。対して、経験が浅いピッカーはピッキングの精度が悪いことに加え、地面に落としたチェリーから予期せぬ発芽が生じ木々のバランスを崩してしまうため、農園によっては徹底した指導が行われます。
収穫期の中にも木のサイクルに合わせた収穫のタイミングがあり、木からチェリーへ送られる栄養分の違いからそれぞれの時期によってコーヒーの味が変化するため、収穫するタイミングによって収穫方法を変えながら、最もコーヒーに適した収穫を行っていきます。

全ての収穫を終えたコーヒーの木は非常に疲れているため、木に対する感謝とともに施肥することで健康状態を健全に戻し、次の年にもまた多くの実を結ぶよう労ることが大切です。
収穫したチェリーはすぐに処理場へと運ばれ、種(コーヒー豆)を取り出す行程へと移ります。

数字刻みの生産処理

農園から精製処理場へと運ばれたコーヒチェリーは、その日のうちに処理が行われます。
行程の違いから、先に果肉を剥がしてから乾燥させる水洗式(ウォッシュド)と、チェリーをそのまま乾燥させ一気にコーヒー豆を取り出す非水洗式(ナチュラル)に大きく分類されますが、近年どんどん作業の細分化が進んでいる分野でもあり、その細かな行程の違いからパルプドナチュラルやハニープロセスなどの名称がつけられています。

収穫したチェリーは一定時間以降からは風味に悪影響を与える発酵などが始まるため、収穫してからの作業にはスピードと精度が求められます。処理場では果肉を剥がすタイミングや洗浄の回数、乾燥時間などが細かく決められており、農園によっては記録簿を使った徹底した品質の管理が行われています。

水洗式の場合、手作業や水を使った比重選別などを行いチェリーの熟度の均一性を高めた後、パルパーと呼ばれる果肉除去機で強制的に果肉を剥がします。
果肉を剥がされた殻付きコーヒー豆はムシラージという粘膜質に覆われているため、発酵槽と呼ばれるプールに一定時間保管され、バクテリアの力を借りてムシラージを除去します。その後、きれいな水による洗浄や選別を行い乾燥行程へと移されます。
選別の回数が多いことや果肉が発酵する前に除去されることから、クリーンな味のコーヒー豆を作ることができ、今日最もスタンダードな処理方法と言うことができます。

非水洗式の場合は、水洗式で行う果肉除去などは行わず、チェリーのまま乾燥行程へと移されます。
水洗式に比べて行程が単純であり、選別回数も少なく手間を削減できるなどの理由から、国内流通用や高品質を求めないコマーシャルグレードのコーヒー豆の処理に使われますが、果肉をつけたまま乾燥させることで果肉の成分がコーヒー豆に吸収され、水洗式にはない独特の果実感やインパクトを感じるコーヒー豆に仕上がるため、丁寧な選別や乾燥過程の管理の徹底などの作業と併せてスペシャルティグレードのコーヒー豆の処理にも使われることがあり、力を入れる農園が増えてきている処理方法です。

スペシャルティコーヒーの場合、どちらの処理でもチェリーの熟度の均一性や欠点豆の混入がないことが求められており、収穫した後に未熟や過熟のチェリーを手作業で取り除いたり、水の比重を利用して水に浮く小枝や葉、水に沈む小石を取り除くなどの選別が同時進行で行われます。また、水洗式の場合、発酵槽から取り出したコーヒー豆を洗浄するときに再度選別作業が行われます。

乾燥場へと移されたコーヒー豆は薄く一定の厚みに敷き詰められ均一に乾燥させられます。コーヒー豆を敷き詰める場所は国や農園によって様々で、パティオと呼ばれるコンクリートの床の上に敷き詰めることもあれば、アフリカンベッドと呼ばれる腰の高さほどに設置された網を使用することもあります。
地面に敷き詰める方法では、吸水率の良いレンガを使用するなどの様々な工夫が見受けられますが、地面からの雑菌や害虫の影響を受けやすいなどの理由から、スペシャルティコーヒーを生産する農園ではアフリカンベッドを使って乾燥させている風景を多く目にします。

いずれの場合も、均一に乾燥させるために絶え間なく攪拌を行う必要があり、同時にこれまでの作業で除去することができなかった欠点豆の除去などを行っていきます。
乾燥は水分量計を使い細かいパーセンテージまでを把握しながら行うため、この時期に雨が降ることは高品質のコーヒーを生産するためには好ましくなく、また機械乾燥はコーヒー豆に燃料の風味が付着してしまうことからスペシャルティコーヒーには使用されないため、乾燥工程は特に天候に非常に左右される作業といえます。

脱殻 そして焙煎へ

乾燥工程を終えたコーヒー豆はパーチメントと呼ばれる殻に包まれているため、機械を使い脱殻を行います。
脱殻後にようやく焙煎前の生豆と呼ばれる状態になりますが、この状態で再度欠点豆などの除去を行います。大きな農協では機械選別も行われますが、最終的には人の手によって入念なハンドピックを行うことが更なる品質の向上につながります。生産処理では力のある男性が向いているため、ハンドピック作業は女性が行うことが多いです。

長い工程を経て生豆となったコーヒー豆は、その中からランダムに取り出されてサンプル焙煎されます。サンプル焙煎の前に格付けのための最終的なハンドピックが行われ、欠点豆の有無が確認された後焙煎されます。
焙煎作業は高い技術力を持った焙煎士が行い、豆によって焙煎がぶれることがないよう丁寧に焙煎され、その後、世界各国のバイヤーなどによってカッピング(テイスティング)され評価されていきます。
コーヒー豆は焙煎すると急激に劣化を始めるため、バイヤーの到着に合わせてその都度焙煎され、バイヤーが求めるコーヒーに見合ったサンプルが用意されます。

全てを決めるカッピング

サンプル焙煎されたコーヒー豆は、バイヤーやカッパーによってカッピング(テイスティング)されますが、著名な農園などの先入観を取り除くため基本的にはブラインドカッピングと呼ばれる方式で評価されます。
ブラインドカッピングとは、農園名や品種、精製処理方法などを一切伏せ、番号だけがランダムにつけられた状態でカッピングすることで、純粋に目の前のコーヒー豆の評価を行うことができ、正しい採点が可能になる方式です。

この方式でカッピングされ、つけられた点数によって買い付けるコーヒー豆が選定されます。
カッピングは専用のカッピングシートを使い、フレーバー(風味特性)や甘さ、酸の質やクリーンカップ(味の透明度)など様々な評価項目を個別に評価していきます。

農作物であるコーヒー豆は同じ農園でも区画や収穫年によって味が様々に変化します。
バイヤーやカッパーには求める味のコーヒーを探し出すことはもちろん、絶対的な評価基準が身につけられていることが求められ、カッピング後に行われるカリブレーション(校正)を通して自分の評価基準を常に修正することが必要とされます。
その年の生産者の情熱や仕事を的確に評価し、それに見合った対価を支払い、継続的な取引を続けていくことが生産者たちのモチベーションを上げ、更なる高品質なスペシャルティコーヒーを生み出す要因になるのです。

消費者の元へ

生産者との合意の上で買い付けられたコーヒー豆は、梱包されそれぞれの国へ向けて出荷されます。
一般的には輸送コストの面から麻袋が使用されますが、輸送中や保管中の劣化を極力避けるため、近年では生産国で真空パックされるコーヒー豆も存在します。
スペシャルティコーヒーの場合、その複雑で繊細な風味特性を損なわないために多く採用されている梱包方式で、湿気の多い日本では特に有効とされています。

無事に消費国へ到着したコーヒー豆は、検疫検査を経てそれぞれの買い付け先へと配達されます。
買い付けたバイヤーの元へ到着したコーヒー豆はその店の焙煎士によって的確に焙煎され、再度のカッピングテストを受け、消費者へと販売されます。
たった一杯のコーヒーを作るために、これほど多くの時間、労力、そして情熱が注がれているのです。
自然の恵みと生産者からロースターまでの情熱が生み出した最高の一杯をお楽しみください。