2017年1月2日
イトログ

『2016年の終わりに思うこと』

 

今年が始まるとき、とある友人の勧めで、《あっという間》という言葉を使わない一年にしようと心に決めていた。

物事を消化的に過ごしたとき、その終わりに《あっという間》という言葉が口をついて出てくるのだと教わった。

 

その気持ちを胸に2016年を過ごしてみて、やっぱり僕には《あっという間》という言葉がお似合いなのだと感じている。

どんなに密度の高い充実した日々を過ごしても、どんなに一つ一つの小さな物事に強く集中しても、やっぱり僕にはあっという間に感じられてしまうようだ。

 

そんなあっという間の2016年でも、とりわけ大きなイベントだったのが【カリオモンズコーヒー大村のオープン】だろう。

 

これまでひとつだった仕事場がふたつになり、ひとつ屋根の下で働いていたチームが別々の場所で働くことになった。

この別々の場所で、、というのがこれまで僕が店舗を増やさなかった理由で、お店というものはブランドでも味でもなく、人で動いているということを強く意識しているからこそ、これまで店舗を増やすという選択肢を選んでこなかった。(もちろんブランドも味も大切なのだけれど)

 

けれども幸いなことに人には人一倍恵まれ、立場関係なく信頼し合えるチームが集まったことで、背中を押されるようにカリオモンズコーヒー大村が立ち上がった。

オープンして5ヶ月。徐々に認知度も上がり、長崎と大村との文化や消費の違いにも対応しながら少しずつでも根ざしていけるよう努めている。

それぞれの店舗にも頼もしいリーダーが育ち、『組織』としての歩みも始めている。カリオモンズコーヒーはすでに次のステージにあって、店主だった僕自身もそれに合わせた動きの取り方が必要な時期にきている。

 

 

2017年はどんな一年になるのだろう。

 

たくさんの出来事が僕の身に起こり、また、たくさんの困難が僕を待っている。

それらを乗り越えたとき、ちょうど1年後くらいに《あっという間》という言葉がぽろりと出てくれば、それは素晴らしい一年を過ごした証拠になるのだろう。

 

2016年の一年間で僕はそれを学んだ。

 

来年もまた《あっという間》になるような一年を楽しみたいと思う。

 

※この記事は2016年12月末に書かれた記事です。

 

 

2016年12月2日
イトログ

 

『ここは、ここ』

 

時折聞かれることがある。

 

「どうして長崎でやっているんですか?」だったり、「長崎を出る予定はないんですか?」だったり、場所に関する質問だ。

自分なりに噛み砕いて理解するところ、つまりは「なんで長崎みたいな田舎で、、」といったニュアンスだろう。

 

先に結論を言うと、出るつもりもないし、出ないつもりもない。

 

中には遠方から通って来てくれていて、もっと身近にカリオモンズのコーヒーを楽しめたらなという、ごく純粋な願いを込めて言ってくれる人もいて、それはそれでとても光栄だし嬉しいし励みにもなる。

素晴らしい作り手の手から生まれた素晴らしいコーヒーを、一人でも多くの人に体験してもらいたいと思う気持ちはずっと変わらないし、確かにもっと人が多いところでやれば広がるペースも早いのかもしれない。

 

けれど僕は日本の西の端・長崎にいる。

お店がある時津町は人口が3万人。渋谷のスクランブル交差点が10回も変われば全員が入れ替わってしまうほどの小さな街。

そんな場所でカリオモンズコーヒーは8年目を迎えている。

 

田舎だからできないとか、都会だから叶うとか、よく聞く台詞だけれどそんな言い訳は一切言いたくない。

良い人材が全て都会に出てしまうかというとそういうわけでもなくて、今のカリオモンズコーヒーのスタッフは全員が地元の出身だ。それでも経営者としてスタッフについてお褒めに与る機会も多い。僕自身もスタッフのことが大好きだし、将来的にそれぞれのキャリアにつながるたくさんの経験がこの場所でできればと常々考えている。

 

要は場所ではなくて環境なのだ。

そして環境がなければ作れば良いだけの話なのだと、この8年間で僕は体験し、学んだ。

 

悔しいけれど、売る意味でのビジネスとしては、田舎は確かに不利な条件だとは思う。

しかし、足をついたその土地で何を考えどう動き、どのようにして良い環境を作り出していくか、それこそがイノベーションだと僕は考える。

 

憧れを求めて都会に赴く時代はとうに終わった。

これからはそれぞれの地でどう在るか、この長崎にも確実にその波は押し寄せている。

 

 

2016年11月16日
イトログ

 

『More than just a coffee.』

 

コーヒーを飲むことは “体験” だと、僕は思っている。

美味しさはもちろんのこと、その一杯を通してさまざまな体験を与えることがコーヒーにはできる。

一杯のコーヒーが、時に一人の人生を変えてしまうこともあるほどで(僕もその一人)、つまりコーヒーを飲むということはそれほどの感動と体験を与えうる行為なのだ。

 

カリオモンズコーヒーで働く人の中には、僕と同じような体験を経てコーヒーの世界に飛び込んできた人もいる。

多くの場合、その体験から沸いた情熱は内向的で、『自分も美味しいコーヒーを淹れたい!』という自分自身を充足させるための興味であることがほとんどだ。

ただ、僕らは日々、お店のエプロンをつけてカウンターの中で働いている。

それは紛れもなくカウンターの先に立つお客様のためであって、自分自身の情熱を満たすためではない。

『美味しいコーヒーを淹れたい!』という情熱を持ってチームに加わったスタッフたちに与えられる最初の大きな試練がこれだ。

自分自身を満たすためではなく、海の向こうで働くコーヒー農家やカウンターの先に立つお客様を満たすことが僕たちの仕事であることを自覚しなければならない。

 

個人ではなく組織としてコーヒーに関わるようになって、その内向的な情熱を外向きに変えることが僕の立場からの最も大きな仕事のひとつだと、そう感じている。

 

美味しいコーヒーを目指す情熱の元で得た経験や技術を他の人のために使い、ひとりひとりに、そして社会に貢献していくこと。

それが達成されたときに得られる感情こそが、『美味しいコーヒーを淹れたい!』という情熱を満たすたったひとつの手段なのだ。

 

 

一杯のコーヒーにとどまらない体験が、飲む人を、そして淹れる人を満たす。

そうやって想いは巡り、行動となり、コーヒー生産者から消費者までを本当の意味で豊かにしていく。

 

全ては一杯のコーヒーを飲む”体験”からはじまるのだ。

 

 

2016年9月24日
イトログ

『作り手と使い手と』

 

2016年9月18日のこと。

エルサルバドルからフェルナンドさん夫婦が長崎にやってきた。

僕が中米のコーヒー農園訪問を始めた2011年から毎年通い、そして毎年コーヒー豆を購入させてもらっているエル・ミラドール農園の農園主。

エルサルバドル滞在中には必ず自宅へ招待してくれ、たくさんの食事とともに奥様とおもてなしをしてくれる。

そんな彼が、この長崎の、それも街外れにあるカリオモンズコーヒーを訪ねてくれた。

 

『コーヒー農家をお店に招待する』というのは産地訪問を始めた時からのひとつの目標で、その目標が先日ついに実現されたのだ。

たった1日、それもわずかに数時間の訪問だったが、僕にとってはとても大きな出来ごとだった。

 

実は数年前にも別の農家さんを招待できるチャンスが訪れたことがあった。結局そのときは《渡航許可》がおりずに実現できなかった。

一緒に買い付けをしている仲間が、様々な機関にかけあい手段を模索してくれたのだが、渡航目的や財政状況などから実現ができなかったのだ。

僕らが産地に行く以上にコーヒー農家さんが日本へ来るということが困難であることを、そのとき実感した。

 

その経験があっただけに、今回のフェルナンドさんの来店は、言わば産地訪問を行ったこの6年間のひとつの集大成であり、お店の歴史としても記録的な1日になった。

 

心配していた台風も幸運にもほとんど影響なく、予定より少し遅れて長崎に着いたフェルナンドさん夫婦を連れて、雨に濡れた長崎らしい中島川沿いを散策することもできた。

 

お店に案内すると、手作りのウェルカムボードやクラッカーとともにスタッフが出迎え、在店中もたくさんのエル・ミラドールファンのお客様が来店してくれた。

お客様にとっても普段自分が飲んでいるコーヒー豆の作り手に会うという経験はそうそう味わうことのできない体験だったと思う。通訳を通じてたくさんの質問がフェルナンドさん夫婦に向けられ、そのひとつひとつにフェルナンドさんたちは丁寧に答えてくれた。

 

時差の影響も抜けない時期だったこともあり、彼らには早めにホテルへの帰路についていただいた。

長旅で疲れているだろうに、電車が出発するその瞬間まで明るく振舞ってくれ、最後まで「長崎へ呼んでくれてありがとう」と繰り返し言ってくれた。

いつもはエルサルバドルで迎えられる立場だったので、こうやって長崎で彼らを迎えられたことが少しでも恩返しになっただろうか。

 

コーヒーには物語がある。

 

カップに注がれた一杯のコーヒーからだけでは窺い知れることのないその物語を、作り手から直接聞き、そして作り手も自分たちの仕事の先にいる使い手たちの声を聞くことができる。

たった数時間のこの空間が、僕がやりたかったことだ。

作る人がいて、買う人がいる。そういった当たり前のことが僕はやりたかった。

 

流通の関係上なかなか理想通りにはいかないこともあるし、僕自身の不器用さで下手やることもあるが、この気持ちだけはこの先も失わず、常に美味しさとその先の豊かさを目指したいと、改めて決意できた素晴らしい1日となった。

 

2016年6月23日
イトログ

『不採用です』

 

僕と妻、二人で始めたこのお店も、年々スタッフが加わり、今では6人で運営するお店になった。

これまで何度かスタッフを募集したけれど、ありがたいことにその度にたくさんの応募があり、その全員を面接させてもらっている。

コーヒーが好きなことはもちろん、みんながそれぞれに魅力的な部分をたくさん持っていて、その中から採用を決めるこのスタッフ募集の時期こそが、僕が一番精神を削る時期かもしれない。

職を辞める覚悟で応募してくれた人や、県外から移住を決めて応募してくれた人、お店で飲んだコーヒーがきっかけでコーヒーにハマり働きたいと望んでくれた人など、それぞれに大きな覚悟と決断を持って面接にきてくれた人ばかりだ。

 

僕は人事をやるにあたって、決めていることがふたつある。

 

ひとつめは、応募者全員を面接すること。

 

どんなに応募が多かろうと、条件に合ってなかろうと、応募してくれた人全員を直接面接している。

その人がどのような性格でどんな声で話し、どういった魅力を持っているのかなんて、履歴書の紙切れや小さな写真じゃこれっぽっちもわからない。

全員と会うからこそ採用するときに身を削るのだけれど、直接話をすることはお店にとっても僕自身にとっても、とても重要なことだと経験上感じている。

 

そしてふたつめが、その全員に返事をすること。

 

僕がまだこのお店をやっていなかったころ。

働きたいと思って応募した会社から返事がないことが度々あった。

その度に気持ちだけが先走って焦り、悶々とした日々を過ごすことがあった。

応募する人もそれぞれに覚悟を持って行動している。それであれば、面接する僕らも対等な覚悟を持って人事に望むべきだ。

一方的な力関係を押し付けられた経験があったからこそ、僕は面接をした全員に電話して返事をすることにしている。

 

たとえそれが『不採用』だったとしても。

 

電話の向こうで落胆し、歯を食いしばる音が聞こえる度に僕も同じくらいに心が痛むのだけれど、一瞬でも人生を委ねられた以上、きちんとした形で返事をすることが会社側の義務ではなかろうか。応募者と会社との間に力関係はそもそも寸分たりとも存在していないのだから。

 

小さな会社の経営者として、僕はこれからもたくさんの人に会っていく。

そのひとつひとつに僕は育てられ、ステップアップするきっかけを与えられているのだ。

ほんの一瞬、人生が交わったその人たちこそ、僕の中での存在感は大きい。

 

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